おじいちゃん

おじいちゃんが亡くなった

すごく突然だった。

いつものようにカフェで作業をしていると、珍しく妹から電話があった。

 

「おじいちゃんが、おじいちゃんが*****::」

 

泣いていて、なんて言ってるかわからなかったけど、妹の泣いている声で、状況はわかった。

妹が泣いているのを、初めて聞いて、涙が出てきた。

身内で、こんな泣くような出来事は、人生でほぼ起こったことがなかった。

自分の中で、人が死ぬっていう感覚を身をもって体験することは、初めてだったのかもしれない。

 

そのあとは、すぐ家に帰り、仕事を切り上げて帰ってきた母親と、たまたま仕事が休みだった妹と、埼玉にあるおじいちゃんの家に向かった。

母親はどんな気持ちでいるのか、そんなことを考えると、何も声をかけられなかった。

僕はおじいちゃん、おばあちゃん子だった。

小学生の時に、お盆にいつもおじいちゃんのお家に行っていた。

おじいちゃんは、とっても大きくて、庭も広くて、僕にはディズニーランドのような人がいっぱいいる遊園地よりも、僕たちだけがいる冒険できるおじいちゃんの家の方が好きだった気がする。

小さい頃は、この岩の上に登り、ジャンプをするという遊びをひたすらやっていた。

そして、庭から畑に続く木のトンネルも、トトロみたいで好きだった。

おじいちゃんとおばあちゃんは、お米を作ったり、畑で野菜を作っていた。

夏休みに木のトンネルを潜ると、トウモロコシがたくさんできていて、それを取って、茹でて塩をかけて食べるのが大好きだった。

おじいちゃんの家で食べるトウモロコシは、きっと世界中で1番美味しいと子供ながら、思っていた。

今は使っていなかったけど、こんな映画の世界のような台所で、おばあちゃんがご飯を作ってくれていたのが、僕をワクワクさせてくれていた。

 

おじいちゃんと最後に会ったのは、7年前。

僕が世界一周に行く前だった。

26歳の時に仕事を辞めて、世界一周に行く僕は、もし世界で自分に何かがあったら、日本に戻れないかもしれないし、誰とも再会できないかもしれない。

そんなことも思って、生まれ育った場所を巡っていた。

そして、おじいちゃんとおばあちゃんに会いにきた。

自分が死ぬとは思っていなかったけど、万が一のために、会いにきた。

そこから僕は無事に帰国した。

その後も色んなことにチャレンジしたり、旅しながら、毎年どこかのタイミングで、おじいちゃんとおばあちゃんのことは、思い出していた。

だけど、この7年間1度も会いに行っていなかった。

旅の話を伝えたらどう思うかな?喜んでくれるかな?

そんなことを思っていても、中々恥ずかしかったりもして、行けていなかった。

 

全部は、一瞬だった。

 

僕の思っていることは、誰にも行動しなきゃわからないかもしれなくて、その行動がなかったことで、おじいちゃんが亡くなり、僕の想いは一瞬で行動に移せなくなった。

時間が大切っていうけど、こういうことなんだ。

とわかっているつもりのことを、妹の電話がかかってきた時に、全てが一瞬で気づかされた。

おじいちゃんは、畑仕事に行っていた。

川から水を汲みだす機械の調子が悪く直しに行っていたらしい。

85歳なのに、めちゃくちゃ元気で力強かった。

だけど、そこで仰向けに倒れているのを近所の方が見つけてくれて、救急車で運ばれたけど、亡くなってしまった。

 

急だった。

心臓が悪かったらしいけど、こんなに急だとは、きっといつも心配していたおばあちゃん以外、誰も思っていなかったと思う。

おばあちゃんは、悔しい!と言っていた。

もっと強く言って、止めていればよかった。

こんな暑い中の作業なんてしない方がよかった。

いつも力強いおじいちゃんは、いつも通り強かったと僕は思う。

亡くなった場所だと思うところに僕は一人で歩いて行った。

すると、そこに帽子とタバコが落ちていた。

おじいちゃんは、タバコは結局最後まで辞めなかった。

畑仕事も、タバコも、辞めなかった。

その脇を見ると、タバコの吸い殻が落ちていた。

おじいちゃんは、最後にタバコを吸ったらしい。

そんなにタバコって美味しいのかな。

そのタバコを拾い上げると、僕は涙が出てきた。

「空見上げていこう」

おじいちゃん、ありがとうね。

僕は最後にこっそり、最初で最後のタバコをおじいちゃんと吸ってみることにした。

味はよくわからないけど、おじいちゃんとタバコを吸っている気がして、嬉しかった。

そこから、数日間でお葬式が行われた。

おじいちゃんを見たら、まだ生きているかのように綺麗だった。

手は、とても分厚くて、いつも油を使った作業をしていたのか、指先が黒かった。

すごくカッコよかった。

僕はおばあちゃんに、「おじいちゃんカッコイイね」と伝えた。

僕が唯一伝えられる言葉だった。

「おじいちゃん、一生懸命働いてくれてありがとう」

おばあちゃんのその言葉が、とても愛に溢れていた。

そして、納棺、火葬とあっというまに、おじいちゃんは骨になった。

僕はこっそりと、世界を旅した時の本をおじいちゃんの棺の中に入れて、燃やしてもらった。

空のどこかで、読んでくれたら嬉しいな。

空を見上げたら、おじいちゃんがいる。

空から、僕を見つけて楽しんでね!

またね。

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